1店舗の調剤薬局のM&Aが成功する条件は何か

1店舗かつ売上1億円以下の薬局は厳しい

調剤薬局業界の再編、調剤薬局M&Aは以前から述べてきたように、1~2店舗の零細薬局から地域のトップクラスの薬局へと波及しています。数年前から各地方の10〜15位以内、売上高で20億円程度までの薬局が大手企業へM&Aする動きが活発になってきているためです。2013~2014年には10店舗クラス、2015~2016年には20~50店舗クラスの地域薬局が全国展開する大手調剤薬局グループへM&Aをする事例が非常に多くありました。

最近の調剤薬局業界を取り巻く環境については、店舗・現場に行くとよく分かります。直接的な競合である大手の調剤薬局だけでなく、大手のドラッグストアに行ってみると、コーヒーや菓子類から調剤、薬まで幅広く揃っています。朝は7時からやっている店舗もあり、夜は21時まで空いています。処方箋を出せる時間帯は10時〜18時と限られているものの、ついで買いも含めて調剤薬局の患者を奪っていることは明らかです。

従って零細規模の薬局の経営は、報酬改定以外にも厳しくなるばかりです。もちろん1店舗でも優良な薬局であれば譲渡が可能ですが、1店舗かつ売上高1億円以下の実績はほぼありません。このような店舗では利益もでていないことがほとんどで、譲渡対価も2〜3千万円が付けば良いところではないでしょうか。現在は1店舗当たりの売上規模(処方箋枚数)が8,000枚を確保できないと、M&Aすることはかなり難しくなってきています。

 

1店舗でも優良薬局は買い手が非常に多い

ここでご紹介するのは、東京で創業30年超の調剤薬局を1店舗経営するオーナーの事例です。売上高は年間約3億円以上(内科・外科が中心)で利益が5000万円ほど出ている優良薬局なので、M&Aが無事に成功した。オーナーは60代前半でしたが、業界の「先行き不安」でした。

そもそもオーナーが譲渡を検討し始めたのは、変動激しく先行きの不透明な業界状況と毎年行われる報酬改定への対応に疲弊し、M&Aによる企業譲渡を考え始めていた。以前から調剤薬局業界の再編については当然のように知っていて、いろいろなところから電話やDMが来ていたということ。

オーナー曰く、「今の経営状態は良好だが、地域の人口は高齢化で減っていく可能性もあるし、競合がいつ大型店舗を出してくるかもわからない。今後は在宅やかかりつけ薬剤師など、小規模薬局ができることは限られていて経営は厳しくなってくるに違いない。そんな今後への「先行き不安」を抱えたまま、借金もして薬局を経営していくのは、正直厳しい」ということでした。

そこでM&Aにて中堅調剤薬局グループの参加に入ることにしました。丁度買い手側では、今後その地域でのドミナント戦略を強化しようと考えており、その旗艦店として興味を持ったことがポイントになりました。

 

薬局のM&Aの注意点はドクターとの関係性

特に1店舗経営の場合、M&Aをする際に買い手が気にする点としては、処方元医院のドクターとの関係が一番懸念点となります。

長年二人三脚で地域医療に貢献してきたドクターと薬剤師のオーナーの関係は密接であることが多く、ドクターの理解なしにはM&Aは進まないことがほとんどだからです。この悩みは小規模な薬局の譲渡の際には避けて通れない悩みであり、どの調剤薬局のオーナーも同じように課題を抱えています。

実際にM&Aを行う際には、細かいことも含めてすべてをM&Aアドバイザーに明確にしておかなくては、後々にM&Aが失敗することにもなりません。

上場グループでは、ドクターへの贈り物がある時点でM&Aが難しくなることもあります。また地域の中でドクターから敷地を借りていたり、看板やバスでの宣伝などを一緒に行っているなど共同で経営を行っているケースも多いため。こういった一つ一つの細かいやり取りについて、譲渡した後どうなるのかの明確な答えを用意し、M&A後ドクターを不安にさせないように準備しなければなりません。

 

M&Aの際のドクターとの情報開示も課題

薬局のM&Aの事実を知らされたときに、「一緒にやってきた仲間なのに」と悲しがったり、怒り出すドクターもいまだに存在しています。こうした理解不足からの誤解、そしてM&Aの頓挫を起こさないようにするためドクターに話しておく内容や、開示の際にお送りする手紙、相手企業との顔合わせの流れなど、事前にドクターとの関係や状況に応じて個別に準備をする必要があります。

また早い段階から「後継者不在で経営の先行きが不安なこと」「薬剤師の採用や仕入れの面で経営が厳しい点」など、自店舗の経営課題について、ドクターと意見を交わしておくことも重要です。

 

「オーナーが一定期間残って今まで通りの経営をしていくので安心してください」とドクターに伝えると、安心してもらえるケースが多いのが実態です。

 

M&A開示当日はドクターのケアを入念に

事前にドクターにM&Aをしなければ厳しい面を適宜頭出しをしていたこともあり、M&A当日は開局前にドクターを訪問してM&Aの経緯を説明し、すぐに譲受け企業の代表者を紹介しました。ドクターへの開示も「これからも一緒にがんばりましょう」と言っていただけてで無事に終了しました。ドクターに訪問後は、従業員への説明から始まりや不動産の家主、銀行へのあいさつ回り、卸会社へのご挨拶など順次開示をしていき、無事に全関係者への開示を終えることができました。