【2018年版】印刷業界の動向とM&A

印刷業界は市場縮小により合従連衡の時代へ

印刷業界はバブル期には13兆円産業であり、「お金を刷っている」と言われたほど収益性の高い業界でした。印刷機器メーカーが大きく成長し始めたのは、戦後に政府がお金を貸付始めた頃からと言われています。当時は社員1名、機械1台といわれたほど、印刷会社がどこにでもあった時代でした。

その印刷業界もインターネット化・ペーパーレス化の流れと漫画・本離れによって紙媒体が減少し、市場縮小が進んでいます。13兆円あった市場は5兆円まで減少しています。

下記に記載した電通社の「日本の広告費」を見ても、紙媒体の市場が大きく減少していることがお分かりになるかと思います(データはspeedaにて作成)。

 

印刷会社は2.7万社という多くの企業が存在している

経済産業省「平成25 年工業統計表 産業編」によると、2013 年の印刷・同関連業の事業所数は2 万7026(前年比4.3%減)と、製造業全体の6.6%を占めています。製造業24 業種においては、金属製品製造業(5 万5556)、食料品製造業(4 万3320)、繊維工業(4 万128)、生産用機械器具製造業(3 万7389)に次いで、製造業24 業種中上位5 番目の多さになっています。印刷・同関連業の約2万7000 事業所は、書店数(1万3943、2014 年)の約2 倍、保育園・保育所(2 万4425、2014年)より若干多く、ガソリンスタンド(3万3510 店、2014 年度)より約20%少ないという規模感です。

市場が急速に縮小している中で印刷会社数も減っているとは言え、市場規模に対しては企業数が多すぎるきらいがあります。

更に印刷通販という新しいビジネスモデルの企業体が、市場の縮小に拍車をかけています。印刷通販とは、自分たちでデータを作成・用意する代わりに、インターネット上から簡単に、どこでも、いつでも注文できる印刷サービスになります。印刷のeコマースという方がわかりやすいかもしれません。近年では「ネット印刷」という言い方もしています。

印刷通販で著名な企業は、京都のプリントパックとグラフィック、東京のラクスル、鹿児島のプリントネットの4社が大手企業と言われています。プリントパックの売上は300億円を超えており、現木村会長がスタートし1代で大企業にまで成長を遂げています。グラフィックも150億円を超える規模にまで成長をしています。

 

印刷会社のM&Aは受注先と機械に注意

具体的にM&Aをしていく上で、買い手はどのような点を重視しているのでしょうか。

一般的なM&Aとは同様に、売上や収益性が良いというのはもちろんですが、印刷会社のM&Aであれば、直近は赤字でもキャッシュリッチで利益剰余金が積み上がっている企業があります。このような企業であれば、時価純資産方式で計算をすれば、十分な企業価値が着く可能性はあります。従って、直近赤字だから譲渡はできないという考えは捨てていただいて問題ありません。

印刷会社独自の実務のポイントは、機械と受注先です。

機械については、どの印刷機を持っているかで印刷可能な種類や印刷媒体の量(通し/台数)が変わってくるため、買い手にとっては重要です。特に印刷業界のストロングバイヤーは菊全版8色機(平台)をニーズとしていることが多く、輪転のみという会社には値段がつきにくいことが多くなっています。

更には昨今の短納期・多品種のニーズの増加によってLEDに対応していることもプラス要因になります。機械については、ハイデルベルク>小森>リョービであることはご承知おきの通りです。

また印刷機以外にも、断裁機や製本機、その他の周辺機器も重要です。特に製本機がきちんと備わっている企業は、近年の製本会社の相次ぐ倒産・廃業により、高くM&Aできる可能性が高いといえます。特殊な加工設備を持っていることもプラスの要因になります。

次に重要なのは取引先です。仕事は大手の下請け業務がほとんどなのか。それとも自社の営業網で仕事を取っているのかは重要だと思います。大手の印刷会社には1社当たりの割当額/割合が決まっていることもあり、同じ取引先の企業では、M&Aをするシナジーが少ないこともあります。

 

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