病院・クリニック・歯科医院業界の業界構造とM&A

病院・クリニック・歯科医院は廃業が大増加

日本における医療費は40兆円を超える勢いがあり、GDPで10%近く。調剤薬局業界と同様に、薬価差益の引き下げ、診療報酬のマイナス改定などで医療費圧縮を政府が推し進めています。

その中で病院・クリニック・歯科医院業界は、大廃業時代に突入をしています。

診療報酬の引き下げは、平成14年度に-2.7%の引き下げがあって以降、平成16年は-1%、平成18年には-3.16%を年々大きくなってきています。自公政権時代に平成14年から4年連続続いたマイナス改定で「医療崩壊」と言われたのがこの時期です。民主党政権になり平成22年に10年ぶりのプラス改定がありましたが、それ以降は0.1%のプラス改定で横ばいとなっています。診療報酬の引き下げの割合をみると、あまり変化をしていないように思えますが、1億円近く借入をして新規開設をしたクリニックでは、大きなインパクトがあります。

また全体の報酬引き下げだけでなく、在宅医療の診療報酬の改定も大きな痛手となっています。具体的には、月2回の定期訪問を前提に受け取ることができる、「在宅時医学総合管理料」について、同一建物内の複数患者から得られる報酬点数が4分の1以下にまで改定されました。また、同様に基本報酬のうちの「訪問診療費」についても、同様の建物の場合は従来の400点から203点までほぼ半減となっています。

更には、慢性的な医師・看護師不足が病院業界の痛手となっています。社団法人日本医師会の調査に寄ると、看護職員の採用は、やや困難と答えたのが30.9%、かなり困難と答えたのが30.1%となっており、医師の採用は、やや困難が19.5%、かなり困難が32.5%となっています。

昨今は看護師採用のCMを大きく見るようになりましたが、なぜこのような看護師不足が起こるかというと、平成18年度診療報酬改定によって新設された「7対1看護配置」の問題があるためです。7対1病床は、患者7人に1名の看護職員が常勤で配置される体制で質の高い医療・手厚い介護が提供できるため、他の10対1病床や13対1病床よりも診療報酬が高く設定されているためです。

このような大幅な診療費削減によって、病院・クリニック・歯科医院は廃業が非常に多くなっています。帝国データバンクの「医療機関の休廃業・解散動向調査」によると、2007年〜2014年までの病院の廃業件数は、約20軒程度となっており大きく減少していないように見えますが、クリニックでは、2010年以降、200軒近くが廃業を強いられています。歯科医院についても、2007年〜2014年まで、平均で30軒近くが休廃業・解散を強いられていると言われています。

病院・クリニック・歯科医院のM&Aのメリット

では、具体的に病院・クリニック・歯科医院が廃業を選ばずM&Aを選択する場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。病院・クリニック・歯科医院が法人か個人かによっても異なりますので、具体的にみていきましょう。

 

[法人・個人共通のメリット]

・廃院コスト(約1000万円)の負担がかからない

・クリニックの譲渡益(営業権を含め)を得られる

・後継者問題を解決できる

・借入金などに対する個人保証や担保設定を外すことができる

労務問題や資金繰りの悩みからの開放

・地域医療への貢献の継続

 

[法人単独のメリット]

・医療法人に不動産を賃貸している場合、引き続き賃貸収入を得られる

・退職金、出資持分分譲などのコントロールがしやすく、創業者利益を得られる

 

具体的なM&A方法

[個人クリニックの場合]

・旧経営者が所有している不動産(クリニックの土地建物)や設備、医療機器などを新経営者に譲渡する。譲渡した対価から得られた譲渡益に対して、20%分離課税がかかります(5年以上保有した不動産の場合)。

・資産以外の負債などは引き継ぐことができないのが課題となっています。

・カルテやスタッフとの雇用関係は原則として引き継げないこととなっていますが、相談次第で可能となっています。

・具体的な譲渡価格は、時価総額(固定資産の時価)+のれん代となります。

 

[旧法の医療法人の場合]

・旧経営者から新経営者へ出資金+積み上げた利益=純資産の譲渡を持って、評価をすることになり、(純資産の評価+のれん代)から当初の出資額を差し引き、その譲渡益に対して20%の税金がかかることとなります。

・基本的には、出資金の譲渡前に経営者に退職金を払うことが多くなり、経営者には、出資金の譲渡額+退職金が入ってくるスキームがほとんどです。

・カルテや雇用関係も原則としては継続となります。

 

[新法の医療法人の場合]

・旧法と異なり、財産権がないため、解散時に蓄積利益を受け取ることができないというデメリットがあります(退職金での支払いは可能)

 

子どもたちが継がない今、ハッピーリタイアの準備を

「開業医を辞めた後の生活がイメージできないから」という理由でリタイアができない開業医の方が多くらっしゃいますが、厳しくなる業界環境の中、病院・クリニックを早く高値で譲渡し、第二の「本当に自分がやりたいこと」を探すことも重要になってきます。

ある東海地方の病院の院長のI氏は、5年間を掛けて不必要なゴルフ会員権等の資産売却や病院の体制整備などをされ、3.5億円以上の値段で譲渡をされました。買い手先から週2〜3日程度J医師という若手の医師の方が非常勤医師として勤務をしてくれており、徐々に意向をしています。

子どもたちも社会人となり、今後は海外旅行を夫婦でしながら、悠々自適な生活をするのが目標です。

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