M&Aが活況な調剤薬局の業界構造と課題とは

調剤薬局業界は小規模企業が95%

現在、業界再編真っ只中と言われている業界が、調剤薬局業界です。調剤薬局業界は、2015年に市場規模が7.3兆円と印刷業界と同程度の非常に大きな市場ながら、薬局の店舗数は5.8万店、開設者数は2.5万社にも上っています。つまり、1企業辺りの平均店舗数は2件程度とパパママストアを出ていない企業が大半だと考えられます。

実際に、矢野経済研究所の「ヤノファーマシーデータレポート2017」によると、店舗数が1店舗のみの企業は17,882社あり、全体の71.5%を占めています。次に2〜5店舗までの企業が5,887店舗あり、全体の23.6%。つまり5店舗以下の企業が全体の95.1%という非常に小規模企業が多い業界なのです。ちなみに、大手企業の順位はアインホールディングスの店舗数が1,066店舗、クラフトの店舗数が697店舗。総合メディカルの店舗数が686店舗、日本調剤が570店舗となっています。

大手調剤グループのトップ10社のシェアは全体のわずか9%程度にとどまっており、市場規模が7兆円規模で大手の凸版と大日本印刷がシェアの50%を占める印刷業界とは業界構造が大きく異ることが明らかです。

 

調剤薬局業界の課題は「薬価改定」と「薬剤師不足」

このような小規模企業が多く、業界再編が進む調剤薬局業界の現在の課題は2点あります。

1点目は、「薬価報酬改定による収益の圧迫」です。薬価改定とは、国の方針として医療費を押し上げる要因となっている薬価の基準価格を値下げすることで、財源捻出と共に、医療費削減に取り組むための施策です。これまでは2〜3年に1回の改定のペースで値下げが行われて来ましたが、平成33年以降、毎年改定となる見込みです。政府が2017年11月に公表した資料では、平成33年以降の薬価改定では対象を大幅に増加させることで、2,500億円の削減を行うと見込まれており、これが小規模の調剤薬局の経営を圧迫するものと考えられます。市場規模が350億円を超える薬については、年4回の薬価改定が盛り込まれるなど、今後の先行きは不透明と言えます。

2点目は、「薬剤師の慢性的な不足」です。薬剤師はこれまで4年制の薬学部の卒業で国家試験を受験することができましたが、現在では6年制となっており、薬剤師が不足する原因となっています。また、6年制に伴い薬学部自体の志願者数が人気が下がってきています。4年制最後の年とあった、2005年には私立の薬学部志願者は12.3万人いましたが、2010年には6.3万人と半減しており、現在の卒業生は過去の半数程度しかいないと考えられます。更には、大手企業が出店攻勢のために多数の採用を行っていることから、地方や小規模企業での薬剤師の採用が困難となり、事業承継が進まない薬局が多くなっているのが現状です。

 

調剤薬局M&Aは中規模案件が増加

調剤薬局業界ではこれまで、比較的小規模企業の事業承継としてM&Aが選択されていたこともあり、2000年代後半までは比較的規模の小さなM&Aが行われていました。

ところが、2010年に東邦HDによるメディカルブレーン(福岡県)の買収やクオールによるテイオーファーマシーグループ(中国・四国地方)の買収など、年商10億円以上の会社のM&Aが置きました。これらの買収を皮切りとして、2012年のマツモトキヨシによる士野薬局(石川県)の買収(13店舗)、2013年のメディカルシステムネットワークによるトータル・メディカルサービス(福岡県)の買収(35店舗)などが行われています。公表ベースでは、2016年におコン割れたJ-STARによるアイセイ薬局の買収(316店舗)が最も大きく、その次に、2016年11月のアインホールディングスによる葵調剤薬局の買収(115店舗)、2017年7月の阪神調剤ホールディングスによるメディカルかるがもの買収(60店舗)と続いています。

 

今後の調剤薬局はIT化推進が求められる

弊社のクライアント企業の中堅の調剤薬局グループの経営陣との議論をしていても、調剤薬局業界はIT化が非常に遅れているというのが、見解です。

お薬を発行するデータシステムであるレセプトコンピューター(レセコン)は非常に使いにくいものが多く、データ管理の不便さを考えても、よりよいシステムを開発すれば、調剤薬局の薬剤師の仕事の効率性は格段に改善すると考えられます。また処方箋情報についても、紙のお薬手帳のようにどこでも安心して使えるスマートフォンアプリなども普及していないため、かかりつけドクターと各調剤薬局での処方箋データをうまくやりとりすることも難しいのが現状です。

今後の調剤薬局業界は、規模拡大によるスケールメリットを活かすとともに、IT投資を積極的に行い、生産性の改善によって効率化していくことが求められると考えられます。また調剤薬局業界のIT化は医療業界全体のIT化に繋がる役割もあり、業界のリーダーとしての戦略が必要になると考えられます。

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