事業拡大期の企業の価値をできるだけ客観的に評価するには?
こちらの記事は幻冬舎オンラインに1月11日に掲載された記事の再編集版となります。
正直な所、M&Aのバリエーションについては企業のタイミングや業界の注目度、マクロ経済の状況などによっても変わるため、完璧に正しいものは存在しないというのが前提です(例えばMBAバリエーションで有名なグロービス経営大学院の森生教授も新刊にて同じ内容を仰っています)。
これらの課題について、よくある質問から、中身を見ていきたいと思います。
事業拡大期の企業には「DCF法」を検討するべき
質問①:
事業拡大期の企業を時価純資産法やマルチプル法で評価するのは不利益ではないか
回答①:
DCF法での評価も依頼するべし
この質問は譲渡希望企業のオーナー様から一番多く受ける質問です。特に若手の経営者の方で、インターネットや書籍などでM&A仲介ビジネスについて学んでいらっしゃる方から最初に聞かれることです。
結論から申し上げると、アドバイザーと共に合理的な事業計画を策定し、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー法)を用いて評価するのが最適です。
そもそも時価純資産法やEBITDA法を他社が説明に用いるのは事業承継などで売買をする場合、3年~5年後まで事業計画を引いてビジネスをすることがないためです。一方で「ビジョン・戦略実現型M&A」では譲受希望企業の要望もあり、経営者が引き続き事業を拡大するために在籍するケースが多々あります。その場合、合理的に事業計画を立てていることでしょう。これを修正しながら企業評価で利用すればいいのです。
また、そもそもITサービスなどでしばらくは赤字であり、最近利益が出始めたような企業であったり、類似企業がまだ上場していない企業では時価純資産法やマルチプル法が利用できないことがあります。
そういう場合にもDCF法での評価を行うことが妥当であると言えます。
質問②:
IT業界で売却を検討をしているが、一般的なM&Aアドバイザーに相談して分かってもらえるか
回答②:
IT業界に詳しいM&Aアドバイザーを頼るべし
IT業界などでは現業のビジネスとは異なったビジネスモデルを採っていることも多くあります。その場合、ITに明るくないアドバイザーでは、有力な候補先を提案できず、M&Aに積極的な大手企業を紹介されることがほとんどです。そうするとなかなか思ったとおりの企業価値がつかないことも多々あります。
他の業界でもその業界の専門家の方がいいのですが、とかくIT業界やゲーム業界では専門用語が独特なこともあり、私が関わった案件でも譲渡希望先のファンド担当者がクラウドサービスである「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」の内容が理解できないこともありました。
従って、そのようなIT業界を得意とするアドバイザーを採用することをおすすめ致します。
質問③;
企業価値の根源である人材がM&A後に辞めてしまうリスクをどうすればいいか
回答③:
優秀な人材が短期間で抜けないようなモチベーション向上の工夫をするべし
成長企業では、最も重要なのが人材というケースが多々あります。ところがせっかくM&Aをしたのに、買った瞬間にキーマンが続々と辞めてしまっては、M&Aをした意味がなくなってしまうことになります。そのようなことが起きないよう、交渉時および交渉後のPMI(ポストマージャーズ・インテグレーション)時に工夫が必要です。
交渉時の方法としては、役員陣などキーマンが一定期間辞められないようにする「キーマン条項」を契約書に盛り込む方法があります。これによって、買収したとたんにキーマンが退職するリスクを減少させられます。また後の回でも詳しく紹介しますが、「アーンアウト条項」によって、譲渡対価の一部をその後の業績に連動して支払うことにすれば、モチベーションの向上にもつながります。
次にPMIのタイミングでは、人事評価制度の改変があります。一般的な中小企業向けM&Aの本を読むと「人事評価制度は一定期間維持するべき」と書かれていますが、成長企業、特にベンチャー企業では社員の給料が低いことがほとんどです。更にM&Aで他社に買収されるということで、「大手傘下では自分たちの思ったサービス開発ができないのではないか」という動揺もしています。そんな時に「評価は今まで通りだから」ではモチベーションがなくなってしまいます。「今までと違って、大手資本だから成果に応じて積極的に待遇を改善してきますから一緒に頑張りましょう」と言えなければならないのです。
以上、事業拡大期の企業価値評価の中でも多く聞かれる3つの質問にお答えをしました。
次回は成長企業を買収した譲受先企業がどのように自社の事業に活かしていくべきかについて見ていくことにします。
森経営コンサルティング