【2017年】IT業界の評価額は2017年度20%以上上昇

世界のIT業界のM&A評価額は急騰

ロイターと日本経済新聞社がまとめたデータによると、2017年1月〜9月までのIT業界のM&Aの株式評価額は、EBIT倍率で20.9倍にまで上昇していることが分かりました。

これは2000年のITバブルの時代の評価額を超えており、高額なM&Aが増加していると言えます。特に自動運転やAI、フィンテックなどの注目領域で、高い評価額でも囲い込みのM'Aが増加していることが要因となっています。

2017年1月〜9月までのお世界のIT業界のM&A件数は5175件となっており、これも過去最高水準となっています。EV/EBIT倍率は2000年の18.8倍、リーマンショック前の2015年の19.8倍を超えてはじめて20倍を超える水準になっています。

大規模案件においては、インテルイスラエルの先進運転支援システムのモービルアイに1.7兆円投じた案件では、EV/EBIT倍率が118倍。バンティブが1.2兆円をイギリスのワールドベイ投じた案件ではEV/EBIT倍率は25.2倍。ヘルマン・アンド・フリードマンデンマークのネッツに7140億円を投資した案件では、EV/EBIT倍率が23.5倍になっています。

 

実態の伴うバリュエーションとなってきた

日本経済新聞社のインタビューに対して、ボストン・コンサルティング・グループの加来氏は「実態の伴っていなかったITバブル時代とは異なり、現在では利益成長やシナジーが見込める企業が多く、価格には正当性がある」と述べています。

 

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【2018年版】建築・建設業界の業界構造とM&A

人手不足の休廃業・解散が増加

建設業界の市場規模は建設投資額をベースにすると、50兆円と言われています。この数字は、1992年のバブル崩壊時に84兆円あった時点から比較すると3分の2程度まで減少したといえますが、リーマンショック直後の2010年の42兆円から比較すると回復傾向にあると言えます。それに伴って、大手4社が過去最高益を更新するまでになっています。

しかしながら、東北大震災に関わる建設ラッシュに加え、東京五輪に向けた建設ラッシュが合わさり、人材不足が大きく課題となっています。更には昨今の好景気によって建設業の就労人口は150万人程度減少しており、人材不足に拍車をかけていると言えます。

実際に人材不足の解消のためのM&Aが増加しています。人材面でのM&Aのメリットとしては、リーダー層を含めた複数の人材を大手から迎え入れることができる点と異なる業種や専門性を持つ人材を確保することができる点、大手の信用度によって採用力が高まる点、処遇や福利厚生・キャリアアップ等多岐にわたります。

実際に、建設業とメーカーであるコニシと角丸建設。設備工事業とビルメンテナンス業である高砂熱学工業と丸誠。警備業と設備工事業であるセコムとイートラストといったM&Aが実現しています。

 

M&Aリーマンショック前まで回復

建設業のM&Aの件数はリーマンショック後5年間、毎年連続で前年を上回る水準で推移しています。2017年は上期で46件の成約が公表されており、これはリーマンショック後の最高値を更新する水準です。

建設業の中でも維持修繕工事は市場の拡大にともなって、M&Aも増加しています。維持修繕工事は新規工事とは異なり、ストック型のビジネスであること、旧耐震を含めた建築物・道路等のインフラの維持・修繕にニーズがあることもあり、これらの業務を外注していた企業が内製化を図りたいというニーズでM&Aをしていることが多くなっています。

更に業種を見ていくと、「土木・建設」では住宅建材卸業のOCHIホールディングス、通信工事のコムシスホールディングス、造船の今治造船、建材製造のコニシなど異業種からM&Aによって参入する企業が増加していることがトピックとして挙げられます。

「ビルメンテナンス業界」では、市場性の拡大は見込めないものの、安定した収益を確保できること及び競合への乗り換え可能性が低い業界のために、隣接業界の企業がM&Aによって参入するケースが増加しています。最大手のイオンディライトを中心に、M&Aが増加しています。イオンディライトはオペレーション領域からオフィスレイアウトやエネルギーマネジメントといったマネジメント領域へと業務を拡大していっています。

「不動産管理業界」では、調剤薬局業界の業界再編と同様に、大手の市場シェアが非常に低いため、大手による中小のM&Aが進んでいっています。2016年の大手10社の管理戸数シェアは32%となっており、最大手の大東建託でも8%と低水準です。今後不動産管理業会では、調剤薬局の業界再編のように、大手が中小をM&Aする次代を経て、大手が中堅をM&Aする次代へと5年ほど掛けて変化していくことが推測されます。

中期経営計画でM&Aを掲げる企業が増加

ライオンや青山商事M&Aを打ち出した

直近の経済環境を反映し、日本企業のM&Aが増加しているのはこれまでにも数多く取り上げてきました統計から見ても明らかです。その流れを受けて、中期経営計画にもM&Aの重要性を掲げる企業が増加しています。

ライオンでは、海外市場の拡大のために、EC事業やM&Aを活用することを掲げています。今後の4年間で売上高を600億円積み上げる方針となっており、M&Aは不可欠であると考えられます。

青山商事では、総合リペアサービス領域を中心にM&Aを検討しているようです。柱となるのは彼らが投資ファンドから買収をしたミスター・ミニットとなり、シェアリングを含めてリペア業界への拡大を狙っていると考えられます。また傘下の印刷会社であるアスコンでもM&Aおよび業務提携を活用し、事業領域を拡大することを目指しています。

JTでは、これまで続けてきた海外のタバコ事業のM&Aを掲げています。JTは直近、タバコメーカーのアメリカン・スピリットを買収しており、低迷する国内市場ではなく成長が続く海外市場での市場シェア拡大を目指しています。特にタバコ市場では東南アジアの成長が著しいため、このエリアでのM&Aは活発化すると考えられます。

[2017年度]M&A案件数は過去最高水準へ

2017年度の譲渡件数は2,239件と前年比19.7%増

レコフデータ社より2017年の公表ベースのM&A・投資件数が公表されました。2017年度の譲渡件数は2,239件となり、前年比19.7%増と大きく増加しました。この件数は過去最高の件数を記録した2006年に次いで、過去2番目の増加となっています。譲受社数については、複数カウントがあるため2,630件となり、こちらは前年比18.1%増と過去最高の件数となっています。

次に業種別に見ていくと譲渡件数のトップは「IT・通信」の726件であり、全体のシェアは32.4%を占めています。IT・通信業界は前年度に続いて業界1位でした。特筆すべきは、前年度比52.2%増という増加率です。IT業界のM&Aが如何に当たり前のものとなってきているかが分かります。弊社にもIT・通信業界のM&Aの依頼については常時10〜15件ほど頂いております。

地域別の全体状況を見ていきましょう。全体では「関東・甲信越」が譲渡件数が1,544件(前年比26.4%増)と過半を占めています。譲受件数も1,922件と前年比24.6%と大幅増でした。次に譲渡案件多いのが「近畿」地方の257件、「北海道・東北」131件となっています。北海道については廃業が増加していることと、北洋銀行を中心にM&Aを強化している地銀があるため、「中部」地方よりも多くの譲渡案件を成約していると考えられます。

 

関東・甲信越では「IT・通信」の631件がトップ

「関東・甲信越」では、譲渡案件1,544件のうち、631件が「IT・通信」となっており、全体の40%を占めています。動物病院運営のエルムスユナイテッド動物病院グループ(東京)が、動物病院業界向けIoT事業、物販事業のタイグリス(同)を株式交換によりで買収した案件などが挙げられます。ヘルスケアや飲食を含む「サービス」が234件で前年比22.5%増、「電機」が90件で前年比13.9%増、「その他販売・卸」が85件で前年比30.8%増となっています。

「近畿」では譲渡案件257件のうち、「サービス」が49件(前年比32.4%増)と「関東・甲信越」とは異なる業種が一位となっています。次いで「IT・通信」が31件(前年比29.2%増)、「その他販売・卸」が17件(前年比21.4%)となっています。

「北海道・東北」では譲渡案件131件のうち、「サービス」が20件(前年比17.6%増)、「IT・通信」が17件(前年比88.9%増)と「近畿」と同じ業種が増加しています。特に「IT・通信」が大幅増となっています。産業革新機構(東京)、全国農業協同組合連合会JA全農)、農林中央金庫住友商事ホクレン農業協同組合連合会による農・畜産農家向けクラウド型牛群管理システム牛個体管理センサー開発・販売ベンチャーのファームノートホールディングス(北海道帯広市)への資本参加など、農業×IT分野での投資が進んでいます。

「北陸・中部」では譲渡案件130件のうち、「IT・通信」が19件(前年比90.0%増)、サービスが13件(前年比30.0%増)、その他小売が12件(前年比−7.7%)となっています。AIベンチャーのエクサインテリジェンス(東京)が、静岡大学ベンチャーで同業のデジタルセンセーション(静岡県浜松市)を吸収合併しています。「サービス」では、廃棄物収集運搬、処理の富山環境整備(富山市)が、東証1部上場の北陸電力(同)の子会社でプラスチック製容器包装中間処理、再商品化事業、プラスチック製産業廃棄物リサイクルのプリテック(同)を買収。「その他小売」では、ガソリンスタンドなど運営のオカモトホールディングス(北海道帯広市)が、セルフ式ガソリンスタンド運営のカナショク(金沢市)を買収しています。

「九州・沖縄」では譲渡案件112件のうち、「IT・通信」が26件(前年比62.5%増)、「サービス」が14件(前年比100%増)、「その他販売・卸」が8件(前年比60%)となっています。「サービス」では、電気設備工事業の興電舎(宮崎県延岡市)が、産業用電機機器保守・修理・販売・メンテナンスの野田電機工業(大分市)を買収しています。「その他販売・卸」では、東証1部上場のマルカキカイ大阪市)が、機械工具、切削工具関連消耗品販売の北九金物工具(福岡県北九州市)を買収。「電機」では、福証上場の南陽(福岡市)が、精密加工部品、FAメカトロニクスなど製造販売の戸高製作所(大分市)を買収するといった案件がありました。

最後に「中国・四国」では譲渡案件65件と比較的少なくなっています。13件が「サービス」であり、「その他小売」が6件となっています。他の地域とは異なり、上位に「IT・通信」が出てこないのは「中国・四国」地方のみの特徴です。  「サービス」では、東証1部上場のソラスト(東京)が、介護サービス事業のベストケア(松山市)を買収したほか、クリーニング店運営のダイヤクリーニング(岡山県倉敷市)は、同業の大杉ドライクリーニング(高松市)を買収しています。

 

実際の譲渡案件は1.5倍程度存在

レコフデータの数字は公表ベースの数字のため、実際はこの1.5倍ほどの案件が成約していると考えられます。弊社でお手伝いをさせていただいている成立案件についても、公表をしていないため、カウントはされておりません。従って非常に多くのM&Aが水面下で成立していると言えるでしょう。

しかしながらGDPに占めるM&Aの成約金額は米国に比べて低い水準となっており、今後もM&A市場は成長していくと考えられます。

投資ファンドのJ-starが投資を積極化

12月から1月にかけて7件に投資

投資ファンドのJ-starによる投資が加速しています。J-starの公表によると2017年12月から2018年1月30日現在までに株式投資を7件実行していることが明らかになっています。

J-star社の投資方針によると、投資ターゲットは10億~30億円程度の規模であり、特定の分野での高い独自性や、ブランド力、業界再編が行われている業界でノウハウの横展開が可能なインフラ関連や小売業、ヘルスケア等がターゲットになっています。投資期間は3~7年程度となっているようです(償還期間内に設定されていると推測されます)。

 

幅広い業種での投資を実行

具体的に彼らがターゲットとしている業界を見ていきましょう。

 

2017年12月18日:株式会社越後屋

株式会社越後屋は2005年の設立以来、炭火焼き干物食堂の『越後屋』を中心に立ち食い焼肉の『次郎丸』、自家製生麺のパスタ店『POTA PASTA』など独自性のあるメニューを提供する飲食チェーンです。その中で炭火焼き干物を中心とする店舗を会社分割によって取得しています。本件については、レコフが仲介のアドバイザリーに入っておりKPMG FASと森・濱田松本法律事務所がDDを担当しているとのことです。

 

2017年12月28日:株式会社ジェシーインターナショナル

株式会社ジェシーインターナショナルはコスプレ等の製造販売を行う企業です。主力ブランドである「BODYLINE」を中心に企画デザインから中国での生産委託製造、そして量販店(ドン・キホーテなど)やECでの販売を行っています。

J-starの公表によると、コスプレを中心としたエンターテインメントファッションという領域はニッチである一方でサプライチェーンマネジメントの管理が属人的になりやすく、事業承継が困難という課題があったとのことです。

J-starの持つ小売業のち県とネットワークを活用して、事業の成長と越境EC等を活用した新たなチャネル開発を行うとのことです。本件については、仲介については日本M&Aセンター、森・濱田松本法律事務所とフェアコンサルティングがDDを担当していることです。

 

2018年1月9日:株式会社セクションエイト

株式会社セクションエイトは婚活関連サービスである「相席屋」を展開する企業です。国内では未婚率が上昇しており、交際相手のいない男女も1000万人に上るとのことです。J-star買収後はコメダ珈琲の安田元社長を招聘し、店舗展開を強化していくとのことです。本件については、ティーポット、アクアコーポレートアドバイザリー、長島・大野・常松法律事務所がDDを担当しているとのことです。

 

2018年1月9日:株式会社三和サービス

株式会社三和サービスは愛知県で中古車の販売業を8店舗展開している企業です。特徴として、自社ブランドの「LDJ DESIGN」は人気車種をドレスアップしたドレスカーになっており、アフターパーツを含めて付加価値の高い中古車販売を行っている企業のようです。本件については、M&A仲介としてストライク、DDとして日比谷中田法律事務所、アタックスグループ、株式会社リブ・コンサルティングが担当されているとのことです。

 

2018年1月22日:株式会社イッティ

株式会社イッティはヘルスケア関連商品の企画、販売を行う企業です。スリムアップ用のサンダル健康系のサプリメント等をEC及びバラエティショップで販売しています。社長の瀧本氏は引き続き継続するとのことで成長戦略型のM&Aであると考えられます。本件については、M&A仲介をM&Aキャピタルパートナーズ株式会社、アレストラ・パートナーズ株式会社、アクアコーポレートアドバイザリー株式会社、AnDus税理士事務所、長島・大野・常松法律事務所

 

2018年1月22日:ハリタ金属株式会社

ハリタ金属株式会社は、鉄・非鉄金属のリサイクル事業、産業廃棄物の中間処理を行う企業です。北陸エリアではTOPクラスのシェアを持ち、技術力もTOPクラスです。今後の事業拡大とガバナンス強化のためにファンドへの譲渡を決定したとのことです。本件のアドバイザーについては明らかになっていません。

 

2018年1月22日:株式会社横井製作所

株式会社横井製作所は、消防製造機器の製造・販売を行う企業であり、1958年創業と歴史の長い企業です。消火設備についてもTOPのクラスのシェアを誇る企業ということです。横井製作所についても、今後の成長とガバナンス強化のために、成長戦略型の譲渡を行い、代表は引き続き継続をされるとのことです。

医療法人M&Aの成功のポイント解説

もめない譲渡価格の決め方とは

医療法人を譲渡する場合の譲渡価格の決め方とはどのようなものでしょうか。まず譲渡側の理事長は、医療法人が持っている全ての金融資産から、従業員の退職金の支給見込額を控除した残りの部分を自身の退職金として計上し、医療法人の資産を一度ゼロ計上するのがスピード感を持って算出が可能です。生命保険や個人の車などは退職金の現物支給とするか、後ほど買い戻す方法のどちらかが選択可能です。

そして理事長交代前に自身の退職金の支給額を確定しておくことが重要です。この時点で医療法人の時価は、設備や医療機器等を除いてほとんどがゼロに近い状態となります。ここに営業権を加算するのが一般的な手法です。

 

営業権算出の3つの基準とは

営業権の算出は3つの方法で行われることが一般的ですが、それ以外にも実務で用いられることがあります。

①診療報酬基準:診療報酬の6ヶ月分

キャッシュフロー基準:(税引き後当期利益+減価償却費)×3年分

③純資産基準:資産の時価-負債の金額

 

譲受側のM&Aのポイント

譲受側から見ると黒字経営ができた医療法人であっても、前理事長の退職金が計上されているため、赤字スタートとなることが多く、「欠損金の繰戻による還付」を活用することで、納税負担が軽減されるというメリットがあります。

譲受側が医療法人をM&Aする際にポイントとなるのは、「個人の持ち出しを少なくしたい」「個人の借り入れをしたくない」「買取資金そのものを医療法人で借りられないか」といった相談内容を早めにアドバイザーと銀行に打ち合わせをする必要があります。

譲渡側と譲受側の双方が同じ方向性でM&Aを進行させていくことが、一番スピーディーで低コストのM&Aが実現できるポイントです。

1店舗の調剤薬局のM&Aが成功する条件は何か

1店舗かつ売上1億円以下の薬局は厳しい

調剤薬局業界の再編、調剤薬局M&Aは以前から述べてきたように、1~2店舗の零細薬局から地域のトップクラスの薬局へと波及しています。数年前から各地方の10〜15位以内、売上高で20億円程度までの薬局が大手企業へM&Aする動きが活発になってきているためです。2013~2014年には10店舗クラス、2015~2016年には20~50店舗クラスの地域薬局が全国展開する大手調剤薬局グループへM&Aをする事例が非常に多くありました。

最近の調剤薬局業界を取り巻く環境については、店舗・現場に行くとよく分かります。直接的な競合である大手の調剤薬局だけでなく、大手のドラッグストアに行ってみると、コーヒーや菓子類から調剤、薬まで幅広く揃っています。朝は7時からやっている店舗もあり、夜は21時まで空いています。処方箋を出せる時間帯は10時〜18時と限られているものの、ついで買いも含めて調剤薬局の患者を奪っていることは明らかです。

従って零細規模の薬局の経営は、報酬改定以外にも厳しくなるばかりです。もちろん1店舗でも優良な薬局であれば譲渡が可能ですが、1店舗かつ売上高1億円以下の実績はほぼありません。このような店舗では利益もでていないことがほとんどで、譲渡対価も2〜3千万円が付けば良いところではないでしょうか。現在は1店舗当たりの売上規模(処方箋枚数)が8,000枚を確保できないと、M&Aすることはかなり難しくなってきています。

 

1店舗でも優良薬局は買い手が非常に多い

ここでご紹介するのは、東京で創業30年超の調剤薬局を1店舗経営するオーナーの事例です。売上高は年間約3億円以上(内科・外科が中心)で利益が5000万円ほど出ている優良薬局なので、M&Aが無事に成功した。オーナーは60代前半でしたが、業界の「先行き不安」でした。

そもそもオーナーが譲渡を検討し始めたのは、変動激しく先行きの不透明な業界状況と毎年行われる報酬改定への対応に疲弊し、M&Aによる企業譲渡を考え始めていた。以前から調剤薬局業界の再編については当然のように知っていて、いろいろなところから電話やDMが来ていたということ。

オーナー曰く、「今の経営状態は良好だが、地域の人口は高齢化で減っていく可能性もあるし、競合がいつ大型店舗を出してくるかもわからない。今後は在宅やかかりつけ薬剤師など、小規模薬局ができることは限られていて経営は厳しくなってくるに違いない。そんな今後への「先行き不安」を抱えたまま、借金もして薬局を経営していくのは、正直厳しい」ということでした。

そこでM&Aにて中堅調剤薬局グループの参加に入ることにしました。丁度買い手側では、今後その地域でのドミナント戦略を強化しようと考えており、その旗艦店として興味を持ったことがポイントになりました。

 

薬局のM&Aの注意点はドクターとの関係性

特に1店舗経営の場合、M&Aをする際に買い手が気にする点としては、処方元医院のドクターとの関係が一番懸念点となります。

長年二人三脚で地域医療に貢献してきたドクターと薬剤師のオーナーの関係は密接であることが多く、ドクターの理解なしにはM&Aは進まないことがほとんどだからです。この悩みは小規模な薬局の譲渡の際には避けて通れない悩みであり、どの調剤薬局のオーナーも同じように課題を抱えています。

実際にM&Aを行う際には、細かいことも含めてすべてをM&Aアドバイザーに明確にしておかなくては、後々にM&Aが失敗することにもなりません。

上場グループでは、ドクターへの贈り物がある時点でM&Aが難しくなることもあります。また地域の中でドクターから敷地を借りていたり、看板やバスでの宣伝などを一緒に行っているなど共同で経営を行っているケースも多いため。こういった一つ一つの細かいやり取りについて、譲渡した後どうなるのかの明確な答えを用意し、M&A後ドクターを不安にさせないように準備しなければなりません。

 

M&Aの際のドクターとの情報開示も課題

薬局のM&Aの事実を知らされたときに、「一緒にやってきた仲間なのに」と悲しがったり、怒り出すドクターもいまだに存在しています。こうした理解不足からの誤解、そしてM&Aの頓挫を起こさないようにするためドクターに話しておく内容や、開示の際にお送りする手紙、相手企業との顔合わせの流れなど、事前にドクターとの関係や状況に応じて個別に準備をする必要があります。

また早い段階から「後継者不在で経営の先行きが不安なこと」「薬剤師の採用や仕入れの面で経営が厳しい点」など、自店舗の経営課題について、ドクターと意見を交わしておくことも重要です。

 

「オーナーが一定期間残って今まで通りの経営をしていくので安心してください」とドクターに伝えると、安心してもらえるケースが多いのが実態です。

 

M&A開示当日はドクターのケアを入念に

事前にドクターにM&Aをしなければ厳しい面を適宜頭出しをしていたこともあり、M&A当日は開局前にドクターを訪問してM&Aの経緯を説明し、すぐに譲受け企業の代表者を紹介しました。ドクターへの開示も「これからも一緒にがんばりましょう」と言っていただけてで無事に終了しました。ドクターに訪問後は、従業員への説明から始まりや不動産の家主、銀行へのあいさつ回り、卸会社へのご挨拶など順次開示をしていき、無事に全関係者への開示を終えることができました。